あなたの未来はあなたの考え方次第

突然ですが、質問です。あなたは、部下に何度か同じ手順を説明し、ある作業を学習させようとしています。しかし、何らかの原因でなかなかうまくいきません。

 

原因は、以下の4つのうちどれに近いと思いますか?

 

① 最近の私の調子がいまひとつだからだ。

② 私には、この部下を教育する能力がない。

③ この部下にとって、この作業は現段階で難易度が高かった。

④ この部下には集中力が欠けている。

 

さて、どの原因を選択すれば、あなたと部下の未来は明るくなるでしょう?

 

未来は、あなたの原因の選び方次第

人は、ある出来事を成功or失敗と認識し、その原因を決定し、ポジティブorネガティブに意味づけます。そして、その意味づけは、次の行動に影響を与えます。「あなたと部下」に、「同じ手順を繰り返しても作業を習得できない」という出来事が起きているとき、「あなた」がその原因をからのどれかに決定することで、「あなた」のその後の行動は変わってきます。そして、「あなたと部下」の未来は明るくも暗くもなります。つまり、未来は、あなたの原因の選び方次第なのです。

 

先の質問は、そもそも設定が曖昧過ぎるし、原因も私が勝手に決めたものなので、ピッタリくる「正しい原因」が存在しないことは明らかです。でも、設問をあたかも実例であるかのように「30歳でやっと主任になったA君は、上司が書類作業を指示しても分かったのか分からないのか返事もしない。ミスを指摘すると黙って書類を修正するのだが、新しい作業を頼むと同様のミスをする。いつも服装や髪形がだらしなく…」などと書くと、皆さんの頭の中に「原因」らしきものが勝手に浮かび上がってきたのではないでしょうか?作られた設定であっても、そこに原因を探そうとする癖が人にはあるのです。

 

さて、話は少し逸れましたが、原因を何に「決定するか」次第で、その後が大きく違ってくることはご想像いただけたでしょうか。

 

原因の決め方には人それぞれの癖がある!

人がどのように原因を決定するかについて、1979年にBernard Weinerが「原因の位置」、「安定性」、「統制可能性」の3次元による原因帰属理論を提唱しました。

 

それぞれ、

 

 原因の位置:原因がその人の内にあるか外にあるか

 安定性:原因の時間的安定性・変動性

 統制可能性:原因がその人の統制下にあるか否か(コントロールできるか否か)

を意味しています。

 

成功の原因は自分の内にあり、失敗の原因は外にあると決めるほうが自信を保つことができます。成功の原因は能力などの安定的なもので、失敗の原因は運のような不安定なものと決めるほうが、この先も何かと頑張れそうです。また、成功や失敗の原因は、自分でコントロールできる努力などの要因だと決める方が前向きになれるでしょう。

 

図 原因の位置・安定性・統制可能性次元による成功・失敗の認知の決定要因

 

統制可能

統制不可能

安定

不安定

安定

不安定

内的

普段の努力

一時的な努力

能力

気分・調子

外的

教師の偏見

他者の援助

課題の難易度

Weiner,1979)(奈須正裕, Weinerの達成動機づけに関する帰属理論についての研究,教育心理学研究,37,84-95より)

 

これを使って冒頭の原因の決定要因を詳しく見てみましょう。

 

①「最近の私の調子がいまひとつだからだ」→【内的・不安定・統制不可能】

 この場合、「今日の指導はこのあたりにして、無理せず早寝しよう。明日、再挑戦だ」なんてことになるでしょう。

②「私には、こり部下を教育する能力がない」→【内的・安定・統制不可能】

 その結果として「私には無理だ、私の部下になった人間は不幸だ」とくれば、あなたと部下の未来は閉ざされてしまいます。

③「この部下にとって、この作業は現段階で難易度が高かった」→【外的・安定・統制可能(部下にとっては統制不 可能だが、あなたには課題の変更が可能なため統制可能)】

 この場合であれば、「では、作業の難易度を一つ下げてみよう」と新しいチャレンジが始められます。

④「この部下には集中力が欠けている」→【外的・安定・統制不可能(集中力を部下の能力とみなしてしまうため)】

さらに「いくら教育しても無駄だ、こんな部下を持たされた私は不幸だ」となれば、部下のために何かをすることすべてがイヤになってしまうかもしれません。

 

原因帰属のパターンには、正解も優劣もありません。でも、自分の「原因の決め方の癖」を知っておくことには大いに意味があります。

 

未来を好転させる原因帰属スタイルとは

自信を強めたり、将来の可能性を信じられるような癖のほうがいいし、必要以上に自分を責めたり恥じたり、何をしても変わらないと思い込んでしまう癖とは、早くお別れしたほうがいいでしょう。まずは、実際に起きている出来事と、原因を決めた思考パターンを切り分けることから始めましょう。いくつもの原因が存在している可能性を柔軟に考えられることが大切です。何かが膠着状態に陥っているときというのは、一つの原因に縛られて柔軟性を失っていることが往々にしてあるからです。

 

そもそも、「何かの原因でうまくいかない」(最初の質問の前提)とか、「物事には必ず原因がある」とか、「正しい原因を特定しないと問題は解決しない」とか、こういうものすべてが、人の「原因探し」癖に過ぎないのかもしれません。そんな理屈が存在しているかどうかすら怪しいものです。だから、部下との試行錯誤には、エジソンの名言「失敗ではない、うまくいかない1万通りの方法を発見したのだ」なんて考えるのも一つの手かもしれません。能天気過ぎると怒られそうだけれど

 

 

参考:奈須正裕, Weinerの達成動機づけに関する帰属理論についての研究,教育心理学研究,37,84-95