どう働けば幸せになれるのか?

今回のお題はド直球、「どう働けば幸せになれるのか?」

今回考えたいのは、この「幸せ」です。

皆さんは、幸せというと何をイメージするでしょう? 多くの人は、明るい快活さ、楽しい笑顔、温かさや癒し、安心感などを思い浮かべるのではないでしょうか。これらの「快」感情は「ポジティブ感情」といい、実は人の持続的幸福(flourishing)のごく一部分にすぎません。にもかかわらず、私たちは、あまりにも個人的な「快」を追い求めがちです。

 

ずっと続く豊かな幸せのための5つの要素

『学習性無力感とレジリエンス』に登場したPERMAを覚えているでしょうか。PERMAは、ポジティブ心理学の父マーティン・セリグマン(Martin Seligmanが幸福を科学的に研究する中で見出した、ウェルビーイング(Well being)を構成する5つの要素です。ここでもう一度見直してみましょう。

 

P:ポジティブ感情

楽しみ、歓喜、恍惚感、温もり、心地よさなどの「快」感情であり、自分が「感じる」もの。この要素を中心に過ごす人生は「快の人生」と呼ばれます。お酒を飲んだり、買い物に行ったり、テレビを見たりすれば、簡単に得ることができますが、持続時間が短く、すぐに慣れてしまうという欠点があります。

 

E:エンゲージメント

「フロー」状態。音楽との一体感や、時が止まる感覚、無我夢中の中で起きる没我の感覚。フロー状態を得ることを目的にした生き方は「充実した人生」と呼ばれます。フロー状態とは、何も感じず考えない高度な集中状態。手に入れる近道はなく、自分の強みや才能を発揮しなければ味わうことはできません。

 

R:関係性

ポジティブな関係性。人は、関係性の問題を解決するために社会脳を発達させながら進化してきました。社会脳には、群居感情と呼ばれる愛情や思いやり、親切心、チームワーク、自己犠牲などを司る構造があり、他者を理解するためのミラーニューロンも備わっています。

 

M:意味・意義

人生における意味や目的。自分より大きな存在、大切な何かだと信じるものに属して、そこに貢献するという生き方は「有意義な人生」と呼ばれます。大きな存在とは、宗教や、ロハス、エコライフ、愛護活動、ボーイスカウト、家族など、さまざまなものが含まれます。

 

A:達成

何かを達成するときには、ポジティブ感情、エンゲージメント、意味・意義、ポジティブな関係性の中の何か(あるいはすべて)が得られることが多いが、それらがなくても、「勝つためだけに勝つ」「達成するためだけに達成する」という生き方があります。この生き方は「達成のための人生」と呼ばれる。富の追及で起きれば、お金を稼ぐことそのものが目的となります。

 

働くことで得られるものは

先日開催した当相談室主催の勉強会『認知療法のカウンセリングへの導入法』の中で、私は、働くことにまつわる、数多くのウェルビーイングの要素を発見しました。勉強会に参加した動機は人それぞれでしたが、誰もが「学んだ理論を実際の業務の中で使いたい」、「使うことで人の理解や問題解決に役立てたい」と思っていました。参加者の皆さんそれぞれが、人とつながるため、つまりR(関係性)を高めるために様々な工夫をし、心を砕いていました。それは、学習理論でいう陽性強化消去なんて言葉で語れるようなものではありません。時間をかけ、人を理解しようとし、試行錯誤する中で獲得されるものです。

 

また、講義中に行われたロールプレイングは15分という設定でしたが、カウンセラー役もクライアント役も、終了時の反応は「もう終わり?」。途中までは時間を気にしていたものの、気付くとフロー状態、E(エンゲージメント)になっていた様子でした。無駄な思考が消え、緊張も不安もない状態。そんな状態になると思わぬ化学反応が起きます。そんなときには、A(達成)の要素も同時に含まれてくることになるでしょう。

 

そして、日曜の朝10時からという貴重な時間を割いて勉強会に参加し、もっと人を理解したい、絆を深めたい、仕事の中で役立てたいという思いは、学ぶことや、他者との信頼関係を築くことそのものにM(意味・意義)を感じてのことではないでしょうか。私が勉強会を開催し続けているのも強くMを感じてのことです。

 

もちろん、これらすべてはP(ポジティブ感情)を高めます。分かった!という感覚やみんなと共感し合えた喜び、和気あいあいとした楽しさなどです。

 

『働く』という言葉は、労働job、仕事career、天職callingなどと英訳されます。あなたの『働く』は、どれに当たるでしょう? もしあなたが天職callingを手にしていたなら、働くということはこんなにも多くの持続的幸福をもたらします。ただ、それは自然と手に入るものではないから、口を開け待っていても幸せにはなりません。もしかしたら、手にするまでには多くの時間や労力などの犠牲が必要になるかもしれませんが、ウェルビーイングを考えれば、その犠牲自体も持続的幸福の一つになり得るのです。

 

さて、「どう働けば幸せになれるのか?」という問いへの答えは得られたでしょうか?

 

参考・引用:

『ポジティブ心理学の挑戦〝幸福″から〝持続的幸福″へ』マーティン・セリグマン著,2014,ディスカバー・トゥエンティワン

 

TEDビデオ「The new era of positive psychology,Martin Seligman,2004